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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(そ)2号 判決

主文

原判決を破毀する。

被告人を免訴する。

理由

檢事総長福井盛太の非常上告の理由について。

被告人は、さきに、昭和二二年一二月八日東京地方裁判所において、同被告人が同年一〇月二三日頃、東京都新宿驛において、相馬高嶺所有の赤皮製手提鞄一個(現金六百六十圓等在中)を窃取した事実を理由として、懲役一年、三年間右刑の執行を猶豫する旨の判決を言渡され、右判決は、同月九日確定したことは記録添付の同裁判所刑事第十部の判決書並びに添付の参考記録によって、明らかである。

しかるに、本件において、被告人は、深山宏と共謀の上、昭和二二年八月三一日から、同年一〇月一五日頃迄の間、前後五回に亘り、千葉縣印旛郡宗像村造谷所在農業會造谷支店外四箇所において、同農業會長篠田定吉の管理するもの、その他、岡田仙助外三名の所有に屬する小麥三俵、朝鮮牛一頭、荷倉一個、小運搬用ゴム輪付大車一臺、鷄一羽、米三升、味噌入飯喰茶碗一個を各窃取したとの事実について、千葉地方裁判所佐倉支部に公訴が提起せられ、同支部は昭和二三年三月二二日被告人に對し、右事実認定の上、懲役一年、三年間その刑の執行を猶豫する旨の判決を言渡し、右判決は同月二九日確定したことは一件記録に徴し明白である。

しかしながら、本件において、右佐倉支部の判決によって認定された被告人の窃盗の事実はさきに東京地方裁判所の判決によって認定された被告人の窃盗の事実と、その短期間内に同種の犯罪が反覆累行されているところから見て、特段に、反對に解すべき資料のない本件においては、單一の犯意斷續の下になされたものと解するのが相當であって、從って、右両個の判決によって認定された各窃盗の所爲は改正前刑法第五五條にいわゆる連續犯に該當するものといわなければならない。

しからば、右連續犯については、その一部について、さきに東京地方裁判所において有罪の判決の言渡があり、その判決の確定したことは前述のとおりであるから、右確定判決の効力は、當然に、その連續犯の他の一部をなす本件犯罪にも及ぶものと云わなければならぬ。されば、本件公訴にかゝる犯罪事実については、舊刑事訴訟法第三六三條第一號に從って免訴の言渡をなすべきであるにかゝわらず、被告人に對し、右犯罪につき、重ねて、有罪の言渡をした佐倉支部の判決は違法であり、從って、本件非常上告はその理由があるから、右佐倉支部の判決は、これを破毀すべきものである。

よって、刑事訴訟法施行法第二條、舊刑事訴訟法第五二〇條第一號但書、第三六三條第一號に從い主文のとおり判決する。

右は全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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